第5回|介護業界はこれからどうなる?ICT・外国人材・スポットワークから考える未来
こんにちは。
医療・福祉のお仕事相談所の鈴木です。
全5回でお届けしてきた、令和7年度「介護労働実態調査」から見る介護業界シリーズ。
ここまで、
第1回 介護業界の人手不足
第2回 介護職が辞める理由
第3回 介護職の給料
第4回 介護職の働きやすさ・働きがい
について見てきました。
そして最終回となる今回は、
「これから介護業界はどう変わっていくのか?」
を考えてみたいと思います。
今回の調査を読んでいて感じるのは、介護業界の人手不足に対して、
「もっと求人を出して、人を採用しましょう」
だけでは、もう難しい時代になっているということです。
ICTや介護テクノロジーを使う。
外国人介護人材に活躍してもらう。
そして、必要な時間だけ働いてもらうスポットワークを活用する。
介護業界の「人の集め方」と「働き方」は、確実に変わり始めています。
今回はその中でも、私自身が人材派遣・職業紹介をしている立場だからこそ気になるスポットワークについて、少し多めにお話ししたいと思います。
介護業界の人手不足を変える3つの選択肢
まず今回の調査から注目したいのが、
介護テクノロジー(ICT)・外国人介護人材・スポットワーク
です。
どれも単純に「人が足りないから人を増やす」という考え方とは少し違います。
介護の仕事そのものを効率化したり、これまでとは違う人材に活躍してもらったり、働き方そのものを変えたりする取り組みです。
介護テクノロジーは「人を減らすため」だけのものではない
今回の調査では、介護テクノロジーを導入している事業所に、その効果について聞いています。
「効果がある」「やや効果がある」を合わせると、
昼間の業務負担の軽減 53.8%
夜間の業務負担の軽減 47.2%
となっています。
介護記録のICT化、見守り機器、インカム、介護ロボットなど、現場で使われるものもかなり増えてきました。
ここで私が大切だと思うのは、
「ICTを入れて介護職を減らそう」
という考え方だけにしないことです。
介護は人と人が関わる仕事です。
機械に全部任せることはできません。
だからこそ、
機械に任せられる仕事は機械に任せて、人にしかできない仕事に時間を使う。
私はこれが介護テクノロジーの本来の価値だと思っています。
記録に30分かかっていたものが15分になる。
夜間の巡回の負担を見守り機器で少し減らせる。
その15分を利用者さんとの会話やケアに使える。
そうなれば、職員の負担軽減だけでなく、介護の質にもつながるのではないでしょうか。
外国人介護人材も「特別な存在」ではなくなってきた
もう一つ、今後さらに重要になるのが外国人介護人材です。
私自身、人材の仕事をしていても、外国籍の介護福祉士さんや介護経験者の方とお話しする機会があります。
外国人介護人材というと、
「日本語は大丈夫?」
「記録はできる?」
「利用者さんとコミュニケーションできる?」
と心配される施設さんもあります。
もちろん、日本語能力や介護技術などの確認は必要です。
ただ、実際には日本の専門学校を卒業し、介護福祉士を取得して、日本の介護施設で何年も働いている方もいます。
私はこれから、
「外国人だからどうか」ではなく、「その人にどんな経験・資格・能力があるのか」
を見ることが、ますます大切になると思っています。
人手不足が深刻になる中で、国籍だけで可能性を狭めてしまうのは、施設側にとってももったいないことです。
私が一番気になった「スポットワーク」
そして今回、私が特に注目したのがスポットワークです。
今回の調査では、過去1年間にスポットワークを利用した事業所は、
8.9%
でした。
まだ介護事業所全体に広く普及しているとまでは言えない数字です。
ところが、利用した事業所のうち、
28.0%が、スポットワーカーを正社員等として雇用した経験がある
と回答しています。
私はこの28.0%、かなり面白い数字だと思っています。
なぜならスポットワークは、
「今日、人が足りないから来てもらう」
だけではなく、
新しい採用経路にもなり始めている
ということだからです。
人材会社の鈴木からすると、正直「かなり大きなライバル」です(笑)
ここは私の立場も含めてお話しします。
私たちは普段、人材派遣と職業紹介を行っています。
なので、カイテクをはじめとした介護・医療系スポットワークは、はっきり言ってしまえば、
かなり大きなライバルです(笑)。
派遣であれば、私たちが求職者さんと面談して、希望条件を確認して、施設をご紹介する。
職業紹介であれば、施設と求職者さんをつないで、採用になれば紹介料をいただく。
これが私たちの仕事です。
一方、スポットワークはアプリ上で仕事を探して、その日だけ働くことができます。
例えばカイテクでは、ワーカーと事業所が日雇いの直接雇用契約を結ぶ仕組みになっています。
ですから、人材会社の立場だけで考えれば、
「いやいや、そんなに広がってもらったら困りますよ!」
と言いたくなるところです(笑)。
でも、私自身が実際にスポットワークで介護現場へ行ってみて、考え方が少し変わりました。
これ、使い方によってはかなり面白い仕組みです。
求職者側から見たスポットワークのメリット
では実際にスポットワークを利用すると、働く側にはどんなメリットがあるのでしょうか。
私自身が実際に働いてみて、一番大きいと感じたのが、
「転職する前に、その職場を実際に知ることができる」
ということです。
実際に働くからこそ「職場の雰囲気」が分かる
転職するときは通常、
求人を見る
↓
応募する
↓
面接する
↓
見学する
↓
入職する
という流れですよね。
でも、面接や30分程度の施設見学だけで、
「この職場、本当に自分に合うかな?」
を判断するのは結構難しいです。
面接では施設側も求職者側も、ある意味「よそ行き」ですからね。
ところがスポットワークなら、実際に中に入って働けます。
職員さん同士がどんな話し方をしているのか。
利用者さんへの声掛けはどうなのか。
管理者は現場の職員とどう接しているのか。
忙しい時間帯に職員さんがどんな雰囲気になるのか。
整理整頓されているか。
外から見学しただけでは分からない部分が、かなり見えます。
これは実際に行ってみると本当に大きいです。
「転職前のお試し」としてもかなり有効
ここは派遣との大きな違いでもあります。
派遣の場合、私たちの取り扱う案件では2~3か月程度の契約でスタートするケースが多くあります。
当然契約期間がありますから、
「1日働いてみて、合わないから明日から行きません」
というわけにはいきません。
一方、スポットワークは基本的に1日単位です。
だから私は、
「この施設ちょっと気になるな」
という場合の、転職前のお試しとしてかなり有効だと思っています。
実際に1日働いてみる。
良かったら、もう一度行ってみる。
何度か働いて、
「ここなら長く働けそう」
と思ったら、直接雇用について相談してみる。
これまでの、
求人票 → 面接 → 入職して初めて職場の実態を知る
という転職とは、かなり違います。
求職者側からすると、転職のミスマッチを減らす方法の一つになり得ると思います。
施設側にもあるスポットワークのメリット
スポットワークのメリットは、働く側だけではありません。
私は、施設側にもかなり大きなメリットがあると思っています。
その一つが、
「スポットの人に何をやってもらうのか?」
を考えなければならないことです。
たとえば、
食事の配膳。
下膳。
清掃。
シーツ交換。
見守り。
入浴介助の補助。
利用者さんとのコミュニケーション。
施設によって任せられる業務は違いますが、
「外部から今日来た人でも任せられる仕事は何か?」
を整理する必要があります。
実はこれ、すごく大事だと思うんです。
スポットワークを使うことで「仕事の棚卸し」ができる
介護現場って、長年同じメンバーで仕事をしていると、
「昔からこうやっているから」
で続いている仕事が結構あります。
Aさんしかやり方を知らない。
何となく介護職がやっている。
本当は介護職じゃなくてもできる。
そもそも今も必要なのか分からない。
そういう業務ってありませんか?
スポットワーカーに仕事をお願いしようとすると、
「この業務って、誰がやるべきなんだろう?」
「資格が必要なの?」
「ここまでスポットの人にお願いできるよね?」
と、一つひとつ考えることになります。
つまり、
スポットワークを導入すること自体が「業務の棚卸し」になる。
私はこれは施設にとって、かなり大きなメリットだと思っています。
仕事を切り分けることで、
介護福祉士が本当に専門性を発揮すべき仕事
に時間を使えるようになるかもしれません。
単純に「人が一人増えた」というだけではなく、
今の業務そのものを見直すきっかけになる。
ここはぜひ施設側にも意識してほしいところです。
「外部の目」が入ることも、実は悪くない
もう一つ。
これは私が実際にスポットで働いてみて感じたことですが、
外部の人が職場に入ること自体にも意味がある
と思っています。
ずっと同じ職場にいると、その職場では当たり前になっていることがあります。
言葉遣い。
利用者さんへの声掛け。
職員同士の接し方。
整理整頓。
業務の進め方。
でも外から来た人は、
「あれ?これ普通なのかな?」
と感じることがあります。
逆に、
「ここの職員さん、利用者さんへの声掛けがすごく丁寧だな」
と感じることもあります。
つまり、良い意味で「外部の目」が入る。
職員側も、
「今日は外から来る人がいる」
というだけで、多少の緊張感が生まれると思います。
私はこの適度な緊張感は、決して悪いことではないと思っています。
閉鎖的になりやすい職場ほど、外部の人が出入りすることには意味があるのではないでしょうか。
スポットワークが「採用手段」にもなっている
そして施設側にとって、もう一つ大きいのが採用につなげられる可能性があることです。
実際に働いてもらってから採用を考えられる
通常の採用なら、
履歴書を見る。
面接する。
場合によっては職場見学をしてもらう。
でも、
その人が実際に介護をしている姿は、入職するまで分かりません。
スポットワークなら違います。
実際に働いてもらったうえで、
利用者さんへの接し方。
職員とのコミュニケーション。
仕事への姿勢。
介護技術。
などを見ることができます。
そして働く側も施設を見ることができる。
つまり、
施設がワーカーを見るだけではなく、ワーカーも施設を見る。
お互いに確認してから、
「一緒に働きたいですね」
となれば、長期雇用につなげる。
これはかなり合理的な採用方法だと思います。
今回の調査で、スポットワーク利用事業所の28.0%がスポットワーカーを正社員等として雇用した経験があるという数字にも、そうした背景があるのかもしれません。
紹介会社としては、ここも脅威です(笑)
さらに私たち職業紹介会社として無視できないのが、スポットワークから直接雇用につながる仕組みです。
私たち人材紹介会社の場合、紹介した方が採用になれば、通常は施設側から紹介手数料をいただきます。
一方、スポットワークから長期雇用につなげる仕組みも出てきています。
施設にとって、実際の働きぶりを見たうえで採用を検討できることは非常に魅力的です。
……人材紹介をやっている私としては、
正直、かなり強敵です(笑)。
ただ、だからといって、
「スポットワークは良くない!」
とは私は思いません。
求職者と施設のミスマッチが減って、長く働ける人が増えるのであれば、介護業界全体としてはプラスだからです。
スポットワークが増えたら、派遣や紹介は必要なくなる?
ここは人材会社として、少し考えてみたいところです。
私は、
スポットワークが広がったからといって、派遣や職業紹介がなくなるとは思っていません。
役割が違うからです。
スポットワークは、
「この日、この時間に働きたい」
というニーズに非常に強い。
一方、派遣や職業紹介では、
求職者さんのこれまでの経験を聞く。
希望条件を整理する。
本人も気付いていない希望を一緒に考える。
施設側の採用事情を確認する。
条件交渉をする。
面接の日程を調整する。
入職後に困ったことがあれば間に入る。
といった、人が間に入るからこそできる支援があります。
特に、
「自分にどんな施設が合うのか分からない」
「転職したいけど、何から始めたらいいか分からない」
という方には、まだまだ人による転職支援の価値はあると思っています。
だから私は、
スポットか、派遣か、紹介か。
どれか一つが正解という話ではないと思っています。
むしろ「組み合わせる時代」になるのかもしれない
これからは、
まずスポットで働いてみる。
気に入った施設があれば長期雇用を検討する。
一定期間、安定して働きたいなら派遣を利用する。
正社員・パートとして転職したいなら紹介会社に相談する。
そんなふうに、
働く人自身がサービスを使い分ける時代
になっていくのではないでしょうか。
施設側も同じです。
欠員が出た1日をスポットで補う。
数か月単位で人材が必要なら派遣を使う。
長期的な人材が必要なら直接採用や人材紹介を使う。
そしてICTで業務そのものを効率化する。
外国人介護人材にも活躍してもらう。
「正社員の求人を出して応募を待つ」だけではない。
いろいろな方法を組み合わせて人材不足に対応していく。
これが、これからの介護業界なのではないかと思います。
スポットワークにも注意点はある
もちろん、私はスポットワークを万能だとは思っていません。
1日だけの勤務では、利用者さんの細かな状態まで把握することは難しいです。
認知症の方への対応も、その人の生活歴や普段の様子を知っている職員だからできることがあります。
施設独自のルールもあります。
事故や急変時の対応方法も施設によって違います。
だから、
「人が足りないから、とりあえずスポットの人に全部任せればいい」
では危険です。
ここでも重要になるのが、先ほどお話しした仕事の切り分けです。
今日初めて来た人に任せられる仕事。
一定の説明があれば任せられる仕事。
常勤職員がやるべき仕事。
専門性の高い職員がやるべき仕事。
これを整理する。
スポットワークを上手に使える施設は、実は業務整理が上手な施設なのかもしれません。
全5回を通して、私すずきが一番感じたこと
さて。
5回にわたって令和7年度「介護労働実態調査」を見てきました。
介護業界は人手不足です。
職場の人間関係を理由に辞める人もいます。
給与は少しずつ上がっています。
そして、大変な仕事でありながら「働きがいがある」と感じている人もたくさんいます。
さらに今、
ICT。
外国人介護人材。
スポットワーク。
新しい仕組みもどんどん入ってきています。
ここまで見てきて、私が一番感じるのは、
「介護の仕事がなくなる」のではなく、「介護の働き方が変わっていく」
ということです。
「介護職」という一つの働き方ではなくなっていく
昔なら、
正社員で施設に入って、
早番・日勤・遅番・夜勤をして、
長く勤める。
それが介護職の一般的な働き方だったかもしれません。
でも今は、
日勤だけ。
夜勤専従。
短時間パート。
訪問介護。
派遣。
スポットワーク。
副業。
外国人介護人材。
ICTを活用した介護。
本当にいろいろな働き方があります。
だから私は転職相談でも、
「介護を続けるか、辞めるか」
の二択だけで考えなくてもいいと思っています。
今の施設が合わないなら、別の施設でもいい。
施設介護が合わないなら、訪問介護でもいい。
正社員が難しいなら、派遣でもパートでもいい。
そして、
気になる施設があるなら、スポットワークで実際に働いてみる。
そんな選択肢まで出てきました。
最後に|「自分に合った働き方」を探してほしい
私は介護職を経験し、その後10年以上、人材紹介・派遣の仕事をしてきました。
今は訪問介護事業所の運営にも携わっています。
いろいろな立場から介護業界を見てきましたが、
完璧な職場は、たぶんありません。
給料が高いけれど忙しい。
休みは多いけれど給料は少し低い。
人間関係は良いけれど通勤が遠い。
仕事内容は好きだけど夜勤が大変。
どこかにメリットがあれば、どこかにデメリットもあります。
だから大切なのは、
「一般的に良い職場」を探すことではなく、「自分に合う職場」を探すこと。
今回の介護労働実態調査には、介護業界の課題がたくさん出ていました。
でも同時に、
介護業界が少しずつ変わろうとしていること
も見えてきたように思います。
ICTでもいい。
外国人介護人材でもいい。
スポットワークでもいい。
派遣でもいい。
職業紹介でもいい。
使えるものは上手に使いながら、
働く人が無理なく続けられて、利用者さんにより良い介護ができる。
結局は、そこにつながることが一番大切なのではないでしょうか。
私すずきも、人材紹介・派遣という立場だけにこだわらず、
「その人にとって、どんな働き方が一番合っているのか?」
を一緒に考えられる存在でありたいと思っています。
これで全5回、終了です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
※本記事の調査数値は、公益財団法人介護労働安定センター「令和7年度 介護労働実態調査 結果の概要」をもとにしています。スポットワークに関する体験・評価・考察については、調査結果そのものではなく、実際にスポットワークを経験した筆者(鈴木)の見解を含みます。